包丁の研ぎ方|現役和食料理人が教える「角度の作り方」と失敗しないコツ【写真解説】

包丁・調理器具
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「トマトがつぶれる」
「玉ねぎを切ると目にしみるようになった」
「鶏皮が切れずに引っかかる」

どれも、包丁の切れ味が落ちたサインです。

こんにちは。現役の和食料理人です。プロの厨房では、包丁を研ぐのは特別な作業ではなく、毎日の仕事の一部です。そして切れない包丁は、食材をつぶすだけでなく、力が要るぶん手を滑らせやすくて危険でもあります。

この記事では、三徳包丁(両刃)を例に、私が実際にやっている研ぎ方を写真で解説します。とくに多くの方がつまずく「研ぐ角度の作り方」については、分度器も道具もいらない、誰でも同じ角度を再現できる方法をお伝えします。

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  1. 用意するもの|普段の手入れは「中砥石1本」で十分です
    1. 荒砥 #220|出番は少ないが、必要なときがある
    2. 中砥 #1000|これが主役
    3. 仕上砥 #8000|さらに上を目指すなら
    4. 面直し|これがないと始まりません
  2. STEP1|砥石を30分、水に浸ける
  3. STEP2|砥石の面を平らに直す(面直し)
    1. なぜ面直しが必要なのか
    2. 準備:布巾を敷いて、砥石が逃げないようにする
    3. 力加減:押しつけるのではなく「密着させる」
    4. ① まず「斜め」に当てて、歪みを取る
    5. ② 次に「まっすぐ」当てて、面を整える
    6. 終わりの見極め:砥糞の広がりと、吸いつく感覚
  4. STEP3|研ぐ角度の作り方「90度 → 45度 → 半分」
    1. ① まず、砥石に対して包丁をまっすぐ立てる
    2. ② その半分に倒す(約45度)
    3. ③ さらにその半分に倒す(約22度)。これが研ぐ角度
    4. そして、この角度を絶対に動かさない
  5. STEP4|刃を3つに分けて研ぐ
    1. ① 切っ先
    2. ② 中心部
    3. ③ 根元
    4. 研ぐときの3つのルール
  6. 切っ先の落とし穴|「コンコルドの刃」に注意
    1. 慣れてきたら:刃をしならせて当てる
  7. 研げたかどうかの確認|爪に当ててみる
  8. 研ぎ進めると、刃はこう変わります
  9. 研ぎ終わったあとの手入れ
  10. よくある質問(FAQ)
    1. Q. どのくらいの頻度で研げばいいですか?
    2. Q. 砥石を水に浸けるのを省略してもいいですか?
    3. Q. 面直しは毎回やるべきですか?
    4. Q. ステンレスの包丁でも同じように研げますか?
    5. Q. 片刃の包丁(柳刃・出刃)も同じ研ぎ方ですか?
    6. Q. 研いでも切れるようになりません。なぜですか?
  11. まとめ|研ぎは「準備」で決まります

用意するもの|普段の手入れは「中砥石1本」で十分です

まず最初にお伝えしておきたいことがあります。家庭で普段使いの包丁を研ぐなら、必要なのは中砥石1本と、面直し用の砥石だけです。何本もそろえる必要はありません。

参考までに、私が使っている4点を紹介します。

種類番手使う場面
荒砥(あらと)#220刃が欠けたとき/刃が厚くなってきたとき
中砥(なかと)#1000普段の手入れはこれだけでOK
仕上砥(しあげと)#8000さらに切れ味を上げたいとき
面直し(めんなおし)砥石の面を平らに戻す

番手(#)の数字は砥石の粒の細かさです。数字が小さいほど粗く、よく削れます。数字が大きいほど細かく、仕上がりがなめらかになります

荒砥 #220|出番は少ないが、必要なときがある

荒砥の出番は2つです。ひとつは刃が欠けてしまったとき。もうひとつは、長年研ぎ続けて包丁がすり減り、「平(ひら)」が厚くなってきたときです。

「平」とは、刃の側面にある平らな面のこと。包丁は研ぐたびに刃先が減っていくので、使い続けるうちに刃先付近の断面がだんだん厚くなり、切れ味が落ちてきます。そこで荒砥で平を削って、刃を元の薄さに戻してやるわけです。

とはいえ、これは何年も使い込んでからの話。買ったばかりの包丁に荒砥は不要です。

中砥 #1000|これが主役

日常の研ぎは、この1本ですべてまかなえます。切れ味が落ちてきたと感じたら中砥で研ぐ。それだけで十分に復活します。最初の1本を買うなら、迷わず#1000です。

仕上砥 #8000|さらに上を目指すなら

中砥で研いだあとに仕上砥をかけると、刃の表面がなめらかになり、切れ味の持続や切り口の美しさが変わります。刺身を引くときなど、断面の美しさが料理の見た目に直結する場面で効いてきます。家庭では必須ではありませんが、あると楽しい1本です。

面直し|これがないと始まりません

砥石の面を平らに戻すための道具です。意外と見落とされがちですが、これは砥石とセットで必要だと考えてください。理由は次の章で説明します。

それぞれの砥石の選び方は家庭用砥石おすすめ3選で詳しく紹介しています。

STEP1|砥石を30分、水に浸ける

研ぎ始める前の準備です。ここを飛ばすとうまく研げません。

砥石を水に浸けて、30分ほど置いてください。「面倒だな」と思われるかもしれませんが、ここは省略しないでほしい工程です。

理由は、砥糞(とくそ)を安定して出すためです。砥糞とは、研いでいるときに砥石の表面に出てくる泥状の研ぎ汁のこと。この砥糞こそが実際に刃を削ってくれる主役で、砥石が十分に水を吸っていないと砥糞がうまく出ず、削れ方が安定しません。

水に浸けると最初は細かい泡がたくさん出ます。この泡が落ち着くころが、砥石が水を吸い終わったサインです。時間にして30分。研ぎ始める前に水に入れておいて、その間に他の家事を済ませてしまうのが効率的です。

STEP2|砥石の面を平らに直す(面直し)

ここが、多くの研ぎ方解説で省略されてしまう工程です。しかしここを飛ばすと、そのあとどれだけ丁寧に研いでも刃はきれいにつきません

なぜ面直しが必要なのか

砥石は使うほど真ん中がへこみます。包丁は砥石の中央付近を通ることが多いので、そこばかりが削れていくからです。

へこんだ砥石で研ぐとどうなるか。刃が砥石のカーブなりに削れてしまい、刃先が丸くなってしまいます。平らな面に当てているつもりでも、実際には湾曲した面に当てているわけです。これでは、いくら時間をかけても切れる刃はつきません。

準備:布巾を敷いて、砥石が逃げないようにする

作業台に折りたたんだ布巾を敷き、その上に砥石を置きます。砥石の長い方向が、体に対して奥−手前になる向きです。

布巾は滑り止めです。これがないと、力を加えた瞬間に砥石が逃げてしまい、面直しをかける以前の問題になります。

力加減:押しつけるのではなく「密着させる」

先に、いちばん誤解されやすいところをお伝えします。面直しは、力いっぱい押さえつける作業ではありません

私が意識しているのは、砥石と面直しを「密着させる」ことだけです。強く押しつけても早く平らになるわけではなく、むしろ面直しが浮いたり傾いたりして、削れ方が偏る原因になります。2枚の面がぴったり合っている状態を保ったまま動かす。これが基本です。

① まず「斜め」に当てて、歪みを取る

最初は、面直しを砥石に対して斜めに当てます。包丁を研ぐときの向きに対して、直角に交わる方向です。

この状態のまま、奥−手前にこすります。持ち方は片手。指を曲げて面直しを包み込むように握ります。斜めに当てているぶん接地面が狭くなるので、両手で押さえるより、片手で角度を保ちながら動かすほうがコントロールしやすいのです。

なぜ斜めから始めるのか。砥石のへこみや歪みは、包丁を研ぐ方向に沿ってできます。その方向と交差させて削ることで、偏った部分に面直しが当たり、歪みが効率よく取れていくからです。

② 次に「まっすぐ」当てて、面を整える

歪みが取れてきたら、面直しを砥石の長い方向と平行に、まっすぐ当て直します。

ここでは持ち方を変えます。右手の指を面直しに当て、その手の甲に左手を重ねる。両手を上下に重ねることで、腕の力ではなく上半身の重みが真上から素直に落ちるようになります。

動かし方は、奥から手前への直線の往復だけ。左右にはブレさせません。テンポは1秒に3往復ほど。短いストロークで、リズムよく動かします。

大事なのは砥石の全面を使うことです。面直しが手前の端から奥の端まできちんと通るように動かします。真ん中だけをこすっていると、へこみの位置が移動するだけで、平らにはなりません。

終わりの見極め:砥糞の広がりと、吸いつく感覚

「何回こすればいいですか」とよく聞かれますが、回数では判断しません。へこみ具合によって必要な量が変わるからです。

私が目安にしているのは、次の2つです。

  • 砥糞の広がり方:面が平らに近づくにつれて、砥糞が砥石の一部ではなく全体に広がってきます。接している面積が増えている証拠です
  • 手に伝わる感覚:平らになってくると、面直しと砥石が「くっついてくる」ような、吸いつく手ごたえに変わります

この2つがそろったら、面直しは完了です。数字ではなく、目と手で判断する。地味な作業ですが、ここが研ぎの土台になります。

STEP3|研ぐ角度の作り方「90度 → 45度 → 半分」

ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。

研ぎ方の解説でよく見る「15度くらいに寝かせて」「10円玉2枚分」という説明。あれで正確に角度を作れる人は、正直あまりいないと思います。私がやっているのは、もっと単純で、誰でも同じ角度にたどり着ける方法です。

① まず、砥石に対して包丁をまっすぐ立てる

最初に、包丁を砥石に対して垂直(90度)に立てます。まな板に包丁を立てるイメージです。

② その半分に倒す(約45度)

次に、その角度のちょうど半分まで倒します。90度の半分なので、約45度です。

③ さらにその半分に倒す(約22度)。これが研ぐ角度

最後に、45度をさらに半分に倒します。だいたい22度前後。この角度で研いでいきます

「半分の、そのまた半分」。分度器も硬貨もいりません。目分量で半分に割るだけなら、誰でもできます。そして毎回同じ手順を踏めば、毎回ほぼ同じ角度が再現できる——これがこの方法の価値です。

そして、この角度を絶対に動かさない

角度を作ること以上に大事なのが、研いでいる間ずっと、その角度を保ち続けることです。

研いでいるうちに手首が動いて角度が変わると、刃先が丸まってしまい、いくら研いでも切れるようになりません。良い刃をつけるために、いちばん重要なのはここです。角度を決めたら、あとは固定したまま動かす。それだけを意識してください。

STEP4|刃を3つに分けて研ぐ

包丁の刃は、砥石の幅より長いのが普通です。一度に全部は研げないので、刃を「切っ先・中心・根元」の3つに分けて、順番に研いでいきます

包丁は砥石に対して斜めに置きます。そして、いま研いでいる箇所の真上に、左手の指を添える。この指が角度と圧力を安定させてくれます。研ぐ場所を移すたびに、指も一緒に移動させてください。

① 切っ先

② 中心部

③ 根元

研ぐときの3つのルール

  1. 力を入れるのは「押す」とき。奥へ押し出すときに力をかけ、引くときは力を抜いて戻します
  2. 1か所につき15往復ほど。まとめて何十回もやらず、15往復ごとに刃の様子を確認しながら少しずつ進めます
  3. 片面をすべて終えてから、裏面へ。切っ先・中心・根元と3か所を研ぎ終えたら包丁を裏返し、同じように3か所を研ぎます。部位ごとに裏返すより、片面ずつまとめたほうが全体がきれいに仕上がります

両刃の包丁なので、表と裏を同じように研ぐのが基本です。

切っ先の落とし穴|「コンコルドの刃」に注意

3か所の中で、いちばん失敗しやすいのが切っ先です。

包丁の切っ先は、ゆるやかに反り上がっています。そのため普通に研いでいるつもりでも、切っ先のいちばん先の部分だけが砥石から浮いてしまっていることがあります

これに気づかず研ぎ続けると、先端だけが研がれずに残り、そこだけが上を向いた形になっていきます。私はこれを「コンコルドの刃」と呼んでいます。飛行機のコンコルドの機首のように、先が反り上がってしまうからです。こうなると、切っ先を使う細かい作業が一気にやりにくくなります。

慣れてきたら:刃をしならせて当てる

これを防ぐ方法があります。切っ先をしっかり指で押さえたまま、持ち手を気持ち上に持ち上げる。すると刃がわずかにしなって、切っ先の先端まで砥石に当たるようになります。

ただし、これは慣れていない方にはおすすめしません。刃を押さえながら力をかける動作なので、手を切る危険があります。

最初のうちは、この技を使う必要はありません。「切っ先の先が浮きやすい」ということを知っているだけで十分です。切っ先を研ぐときだけ少し意識して、先端まで当たっているか確認しながら進めてください。研ぎに慣れて、包丁の扱いが体になじんでから挑戦すれば大丈夫です。

研げたかどうかの確認|爪に当ててみる

刃がついたかどうかは、見た目だけでは判断しにくいものです。私が使っている確認方法は爪に当てるやり方です。

刃先を爪に軽く当ててみて、引っかかる感触があれば刃がついています。逆に、つるっと滑ってしまうならまだです。もう少し研いでください。

あくまで目安ですが、指で刃先に触れるより安全で、慣れると一瞬で判断できます。力を入れずに、そっと当てるだけにしてください。

研ぎ進めると、刃はこう変わります

研ぎの進み具合が、写真で見るとよくわかります。

そして研ぎ終わり。刃先に沿って、うっすらと細い線が光っているのがわかるでしょうか。これが「刃がついた」状態です。

この光る線が刃先まで途切れずに続いているかを確認してください。途中で線が消えている場所があれば、そこはまだ研げていません。とくに切っ先の先端は要チェックです。

研ぎ終わったあとの手入れ

最後まで気を抜かないでください。ここでサビさせてしまう方が多いところです。

  • 包丁を洗って、よく水を切る。砥糞をしっかり洗い流します
  • 乾いたタオルで水気を拭き取る。自然乾燥に任せず、必ず拭いてください
  • 長期間使わないときは、薄くサラダ油を塗っておく。油の膜が空気を遮ってくれるので、酸化(サビ)を遅らせることができます

砥石のほうも、砥糞を洗い流して、風通しのいい場所でしっかり乾かしてから収納します。

よくある質問(FAQ)

Q. どのくらいの頻度で研げばいいですか?

A. 使う頻度によりますが、「切れにくくなったと感じたら」で構いません。トマトの皮がつぶれる、鶏皮が引っかかる、といったサインが出たら研ぎどきです。毎日料理をするご家庭なら、月に1〜2回が目安になります。

Q. 砥石を水に浸けるのを省略してもいいですか?

A. おすすめしません。砥糞が安定して出ないと、研磨そのものがうまくいかないからです。30分は手間に感じますが、浸けておく間は放っておけばいいだけ。研ぎ始める前に水に入れる習慣にしてしまうのが一番ラクです。

Q. 面直しは毎回やるべきですか?

A. 理想は毎回です。少なくとも「砥石の真ん中がへこんでいるかも」と思ったら必ずやってください。砥石にものさしなど真っすぐなものを当ててみて、中央に隙間ができるようならへこんでいます。

Q. ステンレスの包丁でも同じように研げますか?

A. 研げます。手順も角度の作り方も同じです。ステンレスは鋼(はがね)に比べて硬く粘りがあるぶん、少し時間がかかると感じるかもしれませんが、やることは変わりません。

Q. 片刃の包丁(柳刃・出刃)も同じ研ぎ方ですか?

A. この記事は三徳包丁などの両刃を前提にしています。柳刃包丁や出刃包丁のような片刃は、表と裏で研ぎ方がまったく変わります。刃のついている表側はしっかり研ぎますが、裏は「裏押し」といって、平らに当ててごく軽く当てるだけ。裏を普通に研いでしまうと、片刃ならではの切れ味が失われてしまいます。片刃の研ぎ方については、あらためて記事にする予定です。

Q. 研いでも切れるようになりません。なぜですか?

A. 考えられる原因は3つです。①砥石がへこんでいる(面直しをしていない)、②研いでいる途中で角度が変わってしまっている、③刃先まで当たっていない(とくに切っ先)。この記事の順番どおりに、面直し → 角度づくり → 3分割で研ぐ、と進めてみてください。

まとめ|研ぎは「準備」で決まります

最後に、今日の流れをおさらいします。

  • 普段の手入れは中砥#1000と面直しの2つがあれば十分
  • 砥石は30分水に浸ける。砥糞を安定して出すために必須
  • 面直しは「斜め→まっすぐ」。力は入れず密着させる。砥糞が全体に広がり、吸いつく感覚が出たら完了
  • 角度は90度 → 半分(45度) → さらに半分(約22度)
  • いちばん大事なのはその角度を最後まで動かさないこと
  • 刃を切っ先・中心・根元の3分割で。押すときに力を入れ、15往復ずつ確認しながら
  • 片面をすべて終えてから裏面
  • 切っ先は「コンコルドの刃」に注意。慣れるまでは意識するだけでOK
  • 確認は爪に当てて引っかかるか

こうして書き出すと工程が多く見えますが、実際にやってみると研ぐ作業そのものは10分ほどです。時間がかかるのは水に浸ける30分だけ。しかもそれは放っておくだけの時間です。

切れる包丁は、料理を速くしてくれるだけでなく、食材の断面をつぶさないので味も変わります。そして何より安全です。月に一度、砥石を水に沈めるところから始めてみてください。

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