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「ちゃんと研いだのに、大根を切るとパキッと割れる」
「かぼちゃに刃が入っていかず、途中から押し割る感じになる」
研いだばかりなのに、こんなふうに感じたことはありませんか。
先に結論をお伝えします。原因は刃先ではありません。刃先のすぐ後ろの「厚み」です。刃はちゃんとついているのに、その後ろが厚いせいで、食材の奥へ刃が進んでいかないのです。
こんにちは。現役の和食料理人です。この記事では、私が18年使ってきた三徳包丁を使って、「研ぐ前」「刃先だけ研いだ後」「平(ひら)を研いで厚みを落とした後」の3段階で、切れ方と厚みを実際に測りました。紙・トマト・人参・大根・かぼちゃを切り比べ、刃の厚みはノギスで0.01mm単位まで測っています。

研いでも切れない包丁で起きていること
研ぐ前は、紙も大根も切れなかった
まずは研ぐ前の状態です。新聞紙を手で持って引き切りしてみると、刃が引っかかって紙が破れてしまいました。

野菜も同じです。トマトは皮の上で刃が滑り、人参・大根・かぼちゃは、途中まで刃が入ったところでパキッと割れてしまいました。かぼちゃの断面を見ると、上のほうはなめらかな切り口なのに、そこから先はざらざらに荒れています。ここから先は「切れた」のではなく「割れた」ということです。


割れるまでに刃が入った深さを定規で測ると、人参1.5cm・かぼちゃ2.0cm・大根2.3cmでした。
刃先だけ研ぐと、紙はスッと切れた。でも大根は割れた
次に、いつもどおり中砥#1000で刃先だけを研ぎました(約3分)。刃のつけ方は普段とまったく同じで、平(刃の側面)には触れていません。
すると紙は、スッと切れるようになりました。トマトの皮にも、刃がすっと入ります。つまり、刃はちゃんとついています。


ところが、大根とかぼちゃはそれでも割れました。刃が入る深さは2〜2.3cmから3cmへと少し伸びましたが、そこから先はやはり押し割る形です。

紙が切れるのに、大根は割れる。これが「研いでも切れない」の正体です。
「刃がついている」と「刃が入っていく」は別のこと
刃先の役目は、食材に「入口」を作ることです。紙のように薄いものなら、入口ができればそのまま切れます。
でも大根やかぼちゃのように厚みのある食材は、入口ができたあと、刃の後ろの部分が食材を押し広げながら進んでいきます。この部分が厚いと、食材を押し広げる力が強くなりすぎて、切れる前に割れてしまうのです。薪をナタで割るのと同じ理屈です。
現場でも、この状態にはすぐ気づきます。刃を研いでいるのに、食材に食い込んでいかない。刃を入れたときに「重い」と感じる。これが、厚くなってきたサインです。
原因は「研ぎ減り」で刃の後ろが厚くなること
では、なぜ刃の後ろが厚くなるのでしょうか。
包丁の断面は、刃先が薄く、峰(背)に向かってだんだん厚くなる形をしています。研ぐたびに刃先は少しずつ削れて、後ろへ下がっていきます。すると、もともと厚かった部分が、だんだん刃先に近づいてくるのです。
刃先そのものは研げば鋭くなります。でも、そのすぐ後ろの厚みは、刃先を研ぐだけでは変わりません。何年も研ぎ続けるほど、この差が大きくなっていきます。
18年で、身幅が約1cm減っていました
今回の包丁は、V金5号というステンレス鋼の三徳包丁です。かなり前に買ったのでメーカーはわかりませんが、18年間、週に1回ほど研いできました。
峰から刃先までの高さ(身幅)を測ると、35mmでした。同じサイズ・同じ鋼材の三徳包丁を調べると、新品の身幅はだいたい45mm前後です。18年で約1cm、研ぎ減ったと考えられます。

研ぎ減ると、形も変わります。三徳包丁の切っ先は本来、丸く下がった形をしていますが、この包丁は先がとがって、牛刀のような形になっていました。

厚みを実測|平を研ぐ前と後でどれだけ変わったか
刃の厚みを、デジタルノギスで測りました。測ったのは刃渡りの真ん中で、刃先から2mm・5mm・10mmの3か所です。同じ場所を測れるよう、油性ペンで印をつけています。


各地点で3回ずつ測り、平均を出した結果がこちらです。
| 刃先からの距離 | 研ぐ前 | 平を研いだ後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 2mm | 0.57mm | 0.46mm | −0.11mm(約20%薄く) |
| 5mm | 0.82mm | 0.76mm | −0.06mm |
| 10mm | 1.08mm | 0.99mm | −0.09mm |

削れたのは、いちばん大きい刃先から2mmの地点でも0.11mmです。数字だけ見ると、ほんのわずかに思えるかもしれません。
でも、このわずかな差で、切れ方ははっきり変わりました。研ぐ前と同じ大根・かぼちゃ・人参が、割れずに最後までスッと切れたのです(結果は後の章で写真とともに紹介します)。刃先に近いところほど削れ方が大きく、そこが切れ味を左右していることがわかります。
3段階の結果を、ひとつの表にまとめるとこうなります。
| 紙 | トマト | 人参 | 大根 | かぼちゃ | |
|---|---|---|---|---|---|
| 研ぐ前 | 引っかかる | 滑る | 1.5cmで割れた | 2.3cmで割れた | 2.0cmで割れた |
| 刃先だけ研いだ後 | スッと切れる | 刃が入る | — | 3cmで割れた | 3cmで割れた |
| 平を研いだ後 | スッと切れる | 刃が入る | スッと切れた | スッと切れた | スッと切れた |
※「◯cmで割れた」は、割れるまでに刃が入った深さです。刃先だけ研いだ後の人参は記録を取っていないため「—」としています。
平の研ぎ方(ベタ研ぎ)の手順
ここからは、私が実際にやった平の研ぎ方を紹介します。平を砥石にべったりと当てて研ぐので、「ベタ研ぎ」とも呼ばれます。
用意するものは次のとおりです。
- 荒砥(あらと)#220:平の厚みを削り落とす
- 中砥(なかと)#1000:最後に刃をつけ直す
- 面直し砥石:砥石の面を平らに保つ
- 油性ペン:削れている場所を確認する
- 濡れ布巾:砥石の滑り止め
砥石の水の含ませ方と面直しのやり方は、包丁の研ぎ方の記事で写真つきで解説しています。
① 油性ペンで平を塗る
刃先から峰に向かって、2cmくらいの帯を油性ペンで塗りつぶします。表・裏とも塗ってください。

研いでいくと、砥石が当たった場所だけペンが消えます。削りたい場所に当たっているかどうかが、ひと目でわかります。
② 荒砥に平をべったり当てて研ぐ
平を荒砥#220にべったりと当てます。指で平を押さえ、砥石から浮かないようにします。

私が意識しているのは、次の3つです。
- 動かし方と力加減は、刃を研ぐときと同じ。特別な動きは必要ありません
- べったり当てつつ、気持ちは峰側を研ぐつもりで。刃先側ばかり削れると、刃先が薄くなりすぎてしまいます
- 10往復、20往復ごとに、削れた場所を目で確認する。研ぎっぱなしにせず、ペンの消え方を見ながら進めます
研ぎはじめてしばらくすると、ペンがこんなふうに消えていきます。

真ん中あたりに、ペンが帯のように残っているのがわかるでしょうか。包丁の平は真っ平らではなく、わずかにふくらんでいるので、出っぱった部分から先に削れていきます。ペンが全体から消えるまで、少しずつ研ぎ進めます。
③ 表・裏それぞれ研ぎ終える
研ぎ終わった平は、荒砥の細かい傷で全体が白っぽくなります。


今回かかった時間は、表30分・裏30分の合計1時間。その間に、面直しを3回しました。荒砥は削る力が強いぶん、砥石自体もどんどん減ってへこみます。へこんだ砥石で研ぐと平の形が崩れるので、こまめに面直しをしてください。
④ 中砥#1000で刃をつけ直す
平を削ると刃先の形も変わるので、最後に中砥#1000で、いつもどおり刃をつけ直します。今回は5分ほどでした。

刃のつけ方(角度の作り方・3分割での研ぎ方)は、包丁の研ぎ方の記事をご覧ください。
平を研いだ後の切れ味
研ぐ前と同じ食材を、同じ順番で切りました。
トマトは、向こうが透けるほど薄く切れます。

大根も、割れずに最後まで刃が通りました。

かぼちゃは、研ぐ前の写真と比べてみてください。研ぐ前は途中から荒れていた断面が、上から下までなめらかです。

人参も、きれいな輪切りになりました。

平を研ぐときの注意点
効果ははっきり出ますが、刃をつけるのとは違う難しさがあります。やってみる前に、次の4つを知っておいてください。
砥石がまっすぐでないと、包丁の線が狂う
私がいちばん気をつけているのはここです。平は面積が広いので、砥石がへこんでいると、そのカーブがそのまま包丁に写ります。刃のラインが波打ったり、形が崩れたりする原因になります。面直しをこまめにして、砥石をまっすぐに保ってください。
平全体に傷が入る
荒砥は削る力が強いぶん、平に細かい傷がたくさん入ります。前の章の写真のように、見た目は白っぽく曇ります。新品のようなきれいな見た目には戻らないので、そこは割り切ってください。
思ったより時間がかかる
刃先は毎週のように研いでいる私でも、今回は荒砥だけで1時間かかりました。形を崩さないよう、確認しながら少しずつ進めるので、どうしても時間がかかります。時間に余裕のある日にやってください。
鋼材によって研ぎやすさがまったく違う
研ぎやすさは、包丁の鋼材の硬さで大きく変わります。今回の包丁(V金5号)で1時間かかったので、ほかの包丁ではもっと短く済むことも、もっと長くかかることもあります。時間は目安として考えてください。
荒砥がない・時間がないときはどうする?
正直にお伝えすると、荒砥を持っていないなら、平を研ぐのはやめておいたほうがいいと私は思います。中砥#1000だけで同じことをしようとすると、ものすごく時間がかかるからです。
選択肢は3つあります。
- 荒砥#220を用意して、自分で研ぐ。1本あれば、刃が欠けたときにも使えます
- 研ぎ屋さんに頼む。平の厚みを落としてもらえるか、事前に確認してください
- 包丁を買い替える
荒砥を選ぶなら、いま使っている中砥#1000に合わせるのがわかりやすいと思います。
- シャプトン「刃の黒幕」#1000を使っている方:同じシリーズの刃の黒幕#220。水に浸けずに使えるタイプで、幅が70mmと広く、平をべったり当てても安定します
- キングの砥石を使っている方・なるべく安く済ませたい方:キング ホームトイシ#220。使う前に水に浸けるタイプです。幅は52mmと、刃の黒幕よりひと回り小さめです
買い替えどきの目安
何年も使ってきた包丁で、研いでも、食材に刃を入れたときに「切れないな」と感じたら、買い替えの時期だと思います。
平を研ぐのは時間がかかり、形を崩さないように研ぐのも大変です。その手間を考えると、買い替えたほうが時間の面では効率的かもしれません。
ただ、手入れをしながら1本の包丁を使い続けていると、愛着が湧いてくるのも確かです。大切にしようという気持ちが芽生えます。今回の包丁も、18年たった今でもこうして現役で使えています。どちらを選ぶかは、包丁とどう付き合いたいか次第です。
買い替えるなら、三徳包丁の選び方はこちらの記事で紹介しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 平はどのくらいの頻度で研げばいいですか?
A. 頻繁に研ぐものではありません。私も5年に1度くらいです。刃先を研いでも「食い込んでいかない」「重い」と感じるようになったら、と考えてください。
Q. 買ったばかりの包丁にも必要ですか?
A. 必要ありません。何年も研いで刃先が減ってから起きることです。新しい包丁は、刃先を研ぐだけで十分に切れます。
Q. 柳刃包丁や出刃包丁(片刃)でも同じですか?
A. この記事は三徳包丁や牛刀などの両刃の話です。片刃の包丁は、もともと切刃(きりは)を砥石にべったり当てて研ぐのが基本なので、事情が違います。片刃の研ぎ方は柳刃包丁の研ぎ方で解説しています。
Q. 中砥#1000だけでもできますか?
A. 削れないわけではありませんが、非常に時間がかかります。荒砥で1時間かかった作業なので、中砥だけでは現実的ではないと思います。
まとめ|紙が切れるのに割れるなら、刃の後ろの厚みを疑う
最後に、今日の内容をおさらいします。
- 研いでも切れない原因は、刃先ではなく刃先のすぐ後ろの厚み
- 見分け方は「紙はスッと切れるのに、大根やかぼちゃは割れる」
- 何年も研ぐうちに刃先が後退し、もともと厚い部分が刃先に近づいてくるのが原因
- 荒砥#220で平をべったり研ぐと、刃先から2mmの厚みが0.57mm→0.46mmに。それだけで割れずに切れるようになった
- 研ぐときは油性ペンで確認しながら、10〜20往復ごとに目で見て進める
- 砥石がへこむと包丁の形が崩れるので、面直しはこまめに
- 荒砥がないなら、無理にやらない。研ぎ屋さんか買い替えも選択肢
研いでも切れないとき、「研ぎ方が悪いのかな」と自分を責めてしまう方は多いと思います。でも、紙がスッと切れるなら、研ぎ方は間違っていません。包丁が、長く使ってきた分だけ厚くなっただけです。
普段の研ぎ方は包丁の研ぎ方、砥石選びは家庭用砥石おすすめ3選で詳しく紹介しています。

