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「スーパーの柵(さく)を、お店みたいにきれいな刺身にしてみたい」
「柳刃包丁が欲しいけど、鋼材も長さも値段もバラバラで、どれを選べばいいかわからない…」
柳刃包丁は、和包丁の中でもとくに種類が多く、値段も数千円から数十万円までピンキリ。初めての1本選びで迷ってしまうのは当然です。
こんにちは。現役の和食料理人として、日々厨房で柳刃包丁を握っています。多いときには刺身を200人前引くこともあり、これまで鋼(はがね)からステンレス系まで、さまざまな鋼材の柳刃を使い込んできました。
その経験から先に結論をお伝えすると、家庭用の柳刃包丁は「鋼材・長さ・価格」の3つの基準で選べば失敗しません。そして鋼材は、プロの現場で憧れられる本鋼(青紙・白紙)ではなく、サビに強い「銀紙3号(銀三)」やステンレス系こそ、家庭にいちばんおすすめです。
この記事では、その理由を私自身の失敗談も交えながら、初心者の方にもわかりやすく解説します。読み終わるころには、あなたに合う1本がはっきり見えているはずですよ。
柳刃包丁とは?三徳包丁と何が違うのか
柳刃包丁は、刺身を引くための細長い片刃の和包丁です。「刺身包丁」と呼ばれることもあります。
普段お使いの三徳包丁との一番の違いは、刃の長さと構造です。
| 柳刃包丁 | 三徳包丁 | |
|---|---|---|
| 刃の長さ | 24〜33cmと長い | 16〜18cm程度 |
| 刃の構造 | 片刃(片側だけに刃) | 両刃 |
| 得意なこと | 刺身を一方向に「引き切る」 | 切る・刻むなど万能 |
刺身は、包丁を手前に引きながら一度のストロークで切り離すのが基本です。こうすると切り口の細胞がつぶれず、角の立った、口当たりのよい刺身になります。
短い三徳包丁だと、途中で押したり引いたりを繰り返すことになり、切り口がざらついて舌触りが悪くなってしまう。だから刺身には、長い刃で一気に引き切れる柳刃包丁が向いているんですね。
※「引く」とは、料理人が刺身を切ることを指す言葉です。「刺身を引く」と言ったら「刺身を切る」という意味だと思ってください。
失敗しない柳刃包丁の選び方|3つの基準
それでは本題です。柳刃包丁は①鋼材 ②長さ ③価格の3つで選びます。順番に見ていきましょう。
基準①:鋼材|家庭なら「サビに強い」を最優先に
柳刃包丁の鋼材は、大きく分けると次の3タイプです。
| 鋼材 | 切れ味の持続 | サビにくさ | 研ぎやすさ |
|---|---|---|---|
| 本鋼(青紙・白紙) | ◎ 抜群に長切れ | × サビやすい | △ 硬く時間がかかる |
| 銀紙3号(銀三) | ○ 十分長切れ | ◎ サビに強い | ○ 研ぎやすい |
| ステンレス系 | ○ 家庭なら十分 | ◎ サビに強い | ◎ 研ぎやすい |
ここで、私の実体験をお話しさせてください。
私は長年、青紙2号や白紙2号という本鋼の柳刃を使っていました。200人前の刺身を引いても切れ味が落ちにくい「長切れ」は、さすが本鋼という性能です。
ただ、その代わりに悩みも多かったんです。
- 鋼材が硬いので、研ぎに時間がかかる
- 水やお酢に触れるとすぐにサビの症状が出る
- こまめに手入れをしないと、食材に金属の匂いが移ってしまう
とくに気になったのが、金属の匂い移りです。せっかくの新鮮な魚に、うっすら金気(かなけ)の匂いがつく。これを防ぐには使うたびの手入れが欠かせず、正直、神経を使います。
そこで銀紙3号(銀三)の柳刃に変えたところ——長切れの点では本鋼に一歩譲るものの、水やお酢に触れてもサビの症状が出ない。研ぎもラク。匂い移りの心配もない。「家庭で使うなら、間違いなくこちらだ」と実感しました。
考えてみれば、家庭で何百人前もの刺身を引くことはありません。本鋼の「長切れ」という長所を活かす場面がそもそも少ないんです。それなら、サビに強く扱いやすい銀三やステンレス系を選ぶほうが、ずっと快適に長く使えます。
基準②:長さ|プロは27cm、家庭なら24cmも選択肢
私が今使っているのは27cm(9寸)の柳刃です。長すぎず、短すぎない、ちょうど扱いやすい長さで、個人的にはこのサイズがベストだと思って買い求めています。
ただし、これは厨房が広いプロの環境での話。家庭の台所事情によっては、もう少し短い24cm(8寸)のほうが取り回しやすい場合もあります。
- 27cm:引き切りがしやすい標準サイズ。まな板・シンクにゆとりがあるなら
- 24cm:狭めのキッチンでも扱いやすい。収納もしやすい家庭向きサイズ
迷ったら、ご自宅のまな板の長さを測ってみてください。まな板より極端に長い包丁は扱いにくいので、それがひとつの目安になります。
基準③:価格|まず1万円前後で「体感」してから上を目指す
柳刃包丁は、良いものはどうしても高くなります。だからこそ、私は「最初から高級品を買わない」ことをおすすめしています。
おすすめの買い方はこうです。
- まず1万円前後の柳刃で、「柳刃包丁とはこういうものか」を体感する
- 引き方や手入れに慣れてきたら、3万円以上の1本にステップアップする
この順番なら失敗が少ない。いきなり高価な1本を買って「思ったより使わなかった」「手入れが大変で挫折した」となるのが、いちばんもったいないパターンです。まず手頃な1本で柳刃の世界を知ってから、自分の好みに合う本命を選ぶ——プロの包丁選びも、実はこの積み重ねなんですよ。
料理人がおすすめする柳刃包丁2選
ここまでの選び方をふまえて、「最初の1本」と「ステップアップの1本」をそれぞれ紹介します。
① 最初の1本に|藤寅作(藤次郎)のステンレス系柳刃 240mm(1万円台)
新潟・燕三条の包丁メーカー、藤次郎(Tojiro)の国内ブランド「藤寅作(ふじとらさく)」のステンレス系柳刃は、最初の1本にぴったりです。家庭で扱いやすい240mm(24cm)をおすすめします。
- サビに強く、使用後にきちんと拭いておけば手入れがラク
- 研ぎやすく、砥石の練習台としても最適
- 1万円台という手を出しやすい価格
「柳刃で引いた刺身は、こんなに切り口がきれいなのか」——まずはそれを体感してください。この1本で刺身引きの楽しさを知ってから、次の本命を考えれば十分です。
- こんな人におすすめ: 初めての柳刃包丁/まず気軽に刺身引きを試したい/手入れはラクなほうがいい
② ステップアップに|堺孝行 銀三鋼 柳刃(正夫)24cm
柳刃に慣れてきたら、包丁の聖地・大阪堺の堺孝行(さかいたかゆき)の銀三鋼(銀紙3号)柳刃をおすすめします。まさに私が「家庭にいちばん」とお伝えした鋼材の、本職用ブランドの1本です。
- 本鋼に迫る切れ味と、十分な長切れ
- 水やお酢に触れてもサビの症状が出にくく、金属の匂い移りの心配がない
- 研ぎやすいので、切れ味を維持しやすい
ここで紹介するのは、家庭のキッチンで扱いやすい24cmのモデル。私自身は厨房で27cmを愛用していますが、家庭の台所なら24cmのほうが取り回しがよく、収納にも困りません(スペースに余裕があれば27cmももちろん◎)。この1本があれば、家庭の刺身は間違いなく一段上のレベルになります。長く付き合える相棒です。
- こんな人におすすめ: 柳刃に慣れてきた/釣った魚をよく捌く/一生モノの1本が欲しい
切れ味を保つお手入れの基本
プロは柳刃包丁を毎日研ぎます。切れ味が落ちてから研ぐのではなく、落ちる前に整える——これが料理人の感覚です。
とはいえ、家庭で毎日研ぐ必要はありません。次の2つだけ守ってください。
- 使ったらすぐ洗い、水気を完全に拭き取る(銀三やステンレス系でも、濡れたまま放置はNG)
- 月1〜2回を目安に砥石で研ぐ(刺身の切り口が曇ってきたら研ぎどき)
片刃の和包丁は、両刃よりも研ぎの理屈がシンプルで、慣れれば家庭でも十分研げます。銀三やステンレス系なら硬すぎないので、砥石デビューにもちょうどいいですよ。
よくある質問(FAQ)
Q. 三徳包丁で刺身は切れませんか?
A. 切れないことはありませんが、刃が短いぶん一方向に引き切れず、切り口がざらつきやすいです。「切れる」と「おいしく切れる」は別物。刺身を頻繁に引くなら、柳刃包丁を1本持つ価値は十分あります。
Q. 左利き用はありますか?
A. あります。柳刃包丁は片刃なので、左利きの方は必ず「左用」を選んでください。右用をそのまま使うと、刃の構造上まっすぐ切れません。左用は受注生産で価格が上がる場合が多いので、購入時に確認しましょう。
Q. 銀三と本鋼、切れ味はそんなに違いますか?
A. きちんと研いだ直後の切れ味は、正直そこまで大きく変わりません。差が出るのは「切れ味がどれだけ持続するか」です。1日に何百人前も引くプロの現場では本鋼の長切れが効きますが、家庭の使用量なら銀三で十分すぎる性能です。
Q. 研ぎは包丁研ぎ器(シャープナー)ではだめですか?
A. 柳刃包丁は片刃なので、両刃用のシャープナーは使えません。砥石で研ぐのが基本です。難しそうに感じるかもしれませんが、片刃は研ぐ面が決まっているぶん、コツをつかめば両刃より簡単ですよ。
まとめ:柳刃包丁は「銀三・27cm・まず1万円前後」から
最後に、今日の内容をおさらいします。
- 鋼材:家庭なら本鋼(青紙・白紙)よりも、サビに強い銀紙3号(銀三)やステンレス系
- 長さ:標準は27cm。キッチンが狭めなら24cmも◎
- 価格:まず1万円前後で柳刃を体感 → 慣れたら3万円以上へステップアップ
そして、おすすめの2本はこちらでした。
- 最初の1本 → 藤寅作(藤次郎)のステンレス系柳刃 240mm(1万円台)
- ステップアップ → 堺孝行 銀三鋼 柳刃(正夫)24cm
自分で引いた刺身を家族に「お店みたい!」と言ってもらえたときの嬉しさは、格別です。柳刃包丁は、その体験を一番手軽に連れてきてくれる道具。ぜひ、最初の1本から始めてみてください。
なお、日常使いの包丁選びについては家庭で使いやすい三徳包丁おすすめ3選でも詳しく解説しています。柳刃と三徳、両方そろえば家庭の包丁仕事はほぼ完璧です。あわせてご覧ください。

